連休のご予定は?
         〜789女子高生シリーズ
 


      3


それぞれに生え抜きのお嬢様ばかり、
それは奥ゆかしくて聖なる淑女らが通うとされる、
都内とは思えぬほど緑豊かな 丘の上の某女学園では。
ミッションスクールである関係から、
授業の前に礼拝の時間があって、それも単位に数えられたり、
一年を通じてのところどこにも、
キリスト教関係の行事がちりばめられているのだが。
そんな中の一番最初の行事が、
欧州に古くからあるオーソドックスなお祝いを模した、
大地の女神へ豊饒を祈念する“五月祭”というもので。
特に厳密なしきたりがあるとかいうこともなく、
強いて言うなら、
新入生の皆様に早く学園の気風に馴染んでいただきましょうという、
いわば懇親会のような主旨から始まった催しで。
学園内を開放状態にし、
父兄も招いてのお菓子つきのお茶会があったり、
お手製の作品を持ち寄ったバザーがあったり、
講堂での寸劇や斉唱といった演目も多数。
絵画や生け花の展示もあって、
そこから入部したい部活動を知るもよしという傾向が近年には強く。
規模こそ小さめなそれながら、
春の学園祭のようなものとされているとか。
連休の真ん中という困った日程だというに、
よほどのよんどころない事情でもない限り、
欠席者もほとんどないほど楽しみにされているのは何故かと言えば、
お祭りぽい内容の楽しさもさることながら、
新緑の中でのオープニング・セレモニー、
その主役とされる“五月の女王”が皆の前で冠を戴き紹介される、
それはそれは壮麗華厳な儀式に、誰もが立ち会いたいからで。



黄色い八重の小さめの花が咲く中木で、
柔らかそうな葉と棘のない枝からヤマブキと間違える人もいるようだが、

 「あ、でも、これはなかなかいい匂いのする花ですよね。」

随分と存在感のある香りがするし、
よくよく見やればヤマブキとは別の花。

 「モッコウバラという。」

さらりと言った久蔵が、そのまま白い手で手近な花へ、
触れるか触れないかという撫でる仕草をして見せて。

 「一子がくれた。」
 「あらvv」

そもそもは、親類縁者でもなく、ご近所同士でもなくて。
しかも、久蔵は今と変わらぬほど無口で、前へ前へと出てゆく気性でもなし。
一子さんの方も そりゃあ内気で、
しかも事情があってのこと、親戚の家からの通学を始めたばかりという身で。
そこに加えてクラスも違ったから、接点なんてまるきりなかったのだけど。
幼稚舎に今も伝わる 某伝説(笑)が縁となり、(参照してネvv)
そこから、視線が合えば会釈し合うようになり、
ちょいと体力が覚束ない一子さんを久蔵がフォローするようになり。
気がつけば、
周囲さえ二人を“姉妹のような”と評するほどの間柄になっていて。

 「それほどべったりでもなかったが。」

さほど感慨も無さげに口にする久蔵だったが、
そうと言う彼女の眼差しは 仄かに優しい。
特別な意識が必要ないことへ、親しみ合えたのはお互い様だったから。
幼稚舎時代から既に、表情も薄くて無口だった久蔵お嬢様。
そんな彼女のあまりのリアクションの無さを、
他のお嬢様がたは 当初、
“もしかして怒っているのかなぁ”という違和感として受け取ってもおり。
その結果、近づき難いと一線引かれることが多かったのに。
沈黙も間の悪さも何のそのと、
恐れることもなく接していた一子さんも大したものだと、
これは榊せんせえの評。
一方的に頼るでなく、片やもただただ甘やかすでなく、
されど、ちゃんと要所要所では見守り合っていて。

 久蔵さんが、どうかすると同級生たちからまで
 “紅ばら様”と呼ばれている その最初。

毅然としているだけで、冷たいのでも ましてや意地悪な訳でもないというの、
他の皆さんも自然と知ることが出来たのは。
何か御用があっての、でもでも小さなお声は届かぬまま、
初等科の制服のブレザーの、
しゃんとしたお背(おせな)がたったか先へゆくの、
ちょこまかと懸命に追いかける一子様を、
気がつきゃ ちゃんと気遣い、待ってて差し上げる久蔵様の優しさ、
あちこちで見かけたからだとか。
中等部時代、肺炎をこじらせた一子さんが、
長期休暇から そのまま、已を得ずの休学となってしまった折も、
週に一度はお見舞いに通っていた久蔵だそうで。

 「ああそれは、心強かったことでしょうね。」

いいことしましたねと、
目許をたわませ、いい子いい子と綿毛を撫でる白百合さんだったのへ、

 「〜〜〜。////////」

いやあの、そのくらい誰だってするだろと。
赤くなって もぞもぞと、口許を咬みしめたり たわめたりがまた可愛いと。
こちらもまた、
姉妹でもこうはいかぬという仲のよさを見せておいでの、
七郎次と久蔵だったりするのだが。

 “寡黙なお人は喋らぬ分、観察力が秀でてますからねぇ。”

いよいよの明日と迫った五月祭。
演目を予定している演劇部や朗読を披露する英語研究部、
吹奏楽部に斉唱部などなどは、本番を前にしての最終練習に余念がなく、
文芸部や家政科部も、バザーに供する作品や展示内容のチェックだのにお忙しい。
運動部は暇かと言えばとんでもなくて、
各会場の設営や、来賓への案内係を受け持っており。
こちらの三華様がたも、それぞれが所属する部の準備に追われ、
そんな中、野外音楽堂での女王の戴冠式のリハーサルも、
限られた関係者のみで執り行われて。
仕上がったばかりの騎士殿の衣装も持ち込まれての、
朝からの小雨が上がったのを見澄ますと、
大急ぎでスポンジモップを総動員して通路の水気を取り除き、
今日のところは有り合わせの敷物を敷いて設けたレッドロードだったのを。
そちらもお仕立て先から届いたばかりの純白のドレスをまとった一子様が、
可憐な女王様姿でお目見えとなり。
さすがに裾なぞ汚しちゃならぬと、
実行委員会の皆様が数人がかりで丁寧に掲げてという、
祭壇までの道行きの その最初。

 『……。』

バレエにてそういう役どころが多かった恩恵か。
どうぞとお手を差し伸べた所作も完璧な、
金髪に白皙の頬、絞られた痩躯も凛々しい騎士様の、
それは優雅なエスコートぶりがまた。
まとわれた衣装との見事なマッチングもあってのこと、
まるで絵画のような、非の打ちどころのない麗しさ。

 『羽根つきの大きい帽子とかは ないんですね。』
 『だから、それだと王子様だってば。』

判ってて訊いたわねと、ひなげしさんへ苦笑を向けた白百合さんで。
そんなお二人も揃って見守る中、

 『ゆくぞ?』
 『…はい。/////』

大好きなお姉様のお手へ、白い手套に包まれた手を預け、
含羞みながらも小さくうなずいたその所作に、
つややかな黒髪が揺れた一子様もまた、何とも可憐で愛らしく。
あちこちから“きゃあぁんvv”と小さな歓声が上がったのは、
まま“お約束”な展開だったれど。
それとは別口、
他の部署の担当で同座は出来なんだ方々も、
今日ばかりは…行儀のいい方々のはずが 気もそぞろになりかかり、
ああ出来ることなら覗き見したいなぁと歯咬みしのと、
学園中でなかなかのざわめきようだったとかで。

 『ウチへ寄らぬか。』

それらが片付いた昼下がり。
寄り道といや、
平八の下宿先で、女学園のすぐお隣も同然という
“八百萬屋”が定番の彼女らだったが。

 『衣装の気になるところを。』
 『ありゃ、そうですか。』

仮縫いなぞで何度か着てみてもいるはずなのだが、
今日の実地で 初めてお外で着てみて、
しかもエスコートをしいしい歩いたことで気がついた箇所があったものか。
セーラー服に戻り、衣装用のトランクを提げた紅ばらさん、
白百合さんとそれから、
ひなげしさんへも一緒においでと腕を引き、
自宅へのお誘いを持ちかけた。
女学園のある丘を下って到着した、最寄りのJRの駅から更に何駅か。
こちらもまた、それぞれのお宅のお庭に
雨上がりのきららかな緑がたっぷりと瑞々しい、
都内とは思えぬほどの爽やかで清々しい風が吹くお屋敷町で。
時折きゃっきゃとお声を弾ませ、ゆるやかな坂を上ってゆけば、
漆黒の鉄の槍を巡らせたような、
いかにも厳格そうな高い柵の続く、三木さんのお宅へ辿り着き。
白亜のお屋敷を背景にした、
こちらのお庭もまた、萌え初めの緑が目映くて。
モッコウバラの黄色も、なんと可憐なやわらかさだと見ほれておれば、

 「あら? わんこの声がしますね。」
 「キングといってな。」

先週からのこと、親戚から預かってるシェルティがいるのだと、
ぼそりと語った紅ばらさん。
いくら広いお庭でも、野放図な放し飼いなんてことは致しません。
中庭だけをテリトリと定めての、
そこからは出さぬようにと駆け回らせているのだとかで。
そんなお話を紡ぎつつ、
時折薄雲がかかるがそれも去ろうとする空の下、
お屋敷の玄関までのアプローチをのんびりと進む。

 「くうちゃんとの相性はどうですか?」
 「仲はいい。」

山猫のような毛並みも豊かな、
メインクーンのお転婆なくうちゃんは、
貫禄のみならず負けん気も強いらしくって。
片やのわんこは、愛嬌たっぷりの気立てのいい子なものだから、
抜き差しならぬ雰囲気での喧嘩にはならず。
せいぜい、
遊べ遊べとわんこがついて回るのから くうが逃げ出すパターン止まり。
このごろでは
陽あたりのいい辺りで、一緒くたになって昼寝してもいるらしいとのこと。
そんなこんなと他愛ない話を交しつつ、
お揃いのセーラー服姿のお嬢様たちが連なって、
ちょっとした緑地公園と見まごうほど、
手入れも行き届いての広々とした前庭を軽やかに進めば。

 「お帰りなさいませ。」

家内執事さんの奥方が、玄関前にてお出迎え。
柔らかな笑顔は三人共へと向けられたそれで、
短い階段の先、重たげな玄関ドアを丁寧な所作にて開けて下さると、
どうぞと迎え入れて下さったものの、

 「…〜は?」

何かしらを大層小さなお声で訊いた久蔵お嬢様だったのへ、
唐突なお声掛けにも戸惑うことはなく、

 「はい。お戻りでございます。」

やはり穏やかな笑顔にて すらすらと応じておいで。
そかと短く答えて納得したらしき当家のお嬢様、
そこだけでワンルームはあろう広さの、
自然石を敷いた土間部分をすたすたと突っ切ってゆき、
そのまま家へ上がるかと思いきや。
小学生ででもあるかのように、
学生カバンと衣装ケースをそりゃあ無造作に上がり框へとんと置くと、
一緒にいたお友達それぞれの手を取って、
再びお外へ取って返そうとの構え。

 「?? 久蔵殿?」
 「どうされました?」

特に否やと抗うつもりもないが、
何故?とこちらもそれぞれに一応は訊いてみれば、

 「……vv」

 「おやや。//////」
 「あれまぁvv」

小さなあごを引いての、上目遣いになったお顔が、
ちょみっと…判るお人は限られよう、
悪戯っぽく微笑っていたものだから。

 「いやですねぇ、そんなお顔してvv」
 「わたしにも判りました、感動ですvv」

白百合さんには いつものことだが、
ひなげしさんまでが“あららぁvv”と ときめいたほどの、
“秘密だよ、ついて来て”という、お誘いのお顔。
一体どこで覚えたんでしょうか、
そして 兵庫せんせえは知っているんでしょうか?(笑)




     ◇◇◇



お屋敷の周縁に沿い、
赤レンガを思わせるテラコッタ調の敷石が敷かれた誘導路をぐるりと進み、
お嬢様たちが辿り着いたのは中庭へ入る枝折戸で。
特に施錠もないそこを通ると、
陽にやわらかく暖められた芝生の広がるお庭を前に、
背広姿の男性が二人ほど、
陶製の腰掛けに座して何やら語らい合っておいでなのが、すぐにも目に入り。

 「あ…。///////」

片やは、当家の主人にして久蔵さんのお父上、
三木家の次期当主にして、ホテルJの代表取締役にあたられるお人であり。
そしてそして そんなおじさまと泰然と何やら談じておられたは、

 「おや。あれは勘兵衛殿ではありませんか。」

意外や意外という口調ではありながらも、ははぁ〜んと。
ここまでの紅ばらさんの持ってきように、
やっとのこと、
納得もいったというお顔になったのが ひなげしさんならば、

 「……。///////」
 「シチ?」

棒を飲んだように立ち止まってしまったお友達へ、
何を緊張しているんだろと、小首を傾げる久蔵だったが、

 「きゅ、久蔵殿。」
 「…。(うん、なぁに?)」
 「勘兵衛様、何でどうしてこちらに?」
 「父様が。」

呼んだという意だろ、
至って簡潔ながらもすんなりお言いなところからして、
彼女が何やら画策した段取りとかいうのじゃあないらしい。

 “そんな次第だったなら、
  あっと言う間に挙動不審になっちゃいますものね。”

どっかの海賊王じゃあないけれど、(こらこら)笑
作り話や嘘は苦手な紅ばら様なのは相変わらずで。
引ったくりとか痴漢とか、
主にか弱い対象相手に乱暴狼藉を働いた悪漢らを相手に、
二度と立ち上がれなくなるほど叩き伏せるよな、
鮮やかにして徹底的なまでの乱闘を披露しておきながら。
駆けつけた警察や大人の皆様の前では、
一応の辻褄合わせに 猫をかぶってのこと、
いやん 怖い目に遭いましたぁ…という演技が今一つ白々しいの
何とかするのが今年の課題だったりし。

 「そんなもん、課題にせんでいい。」
 「あ、」
 「榊せんせえ。」

よくも読み取りましたね、わたしの腹の声。
そういうときは嘘でも心の声と言いなさい…と、
目許をやや眇めつつ、
ひなげしさんと お約束のやり取りをテンポよく交わしたお人。
今は肩へかかるくらいの長さに揃えた黒髪も、
細おもてへ掛けた銀縁のメガネもシャープな印象の、妙齢知的な紳士様。
こちら、三木家の主治医にして、久蔵お嬢様のお目付役、
兼、女学園の校医も時々 任されておいでの、
榊兵庫というお医者様であり。

 「警部補殿は、こちらのご主人が呼ばれたらしいぞ。」

連休明けの来週早々に、
国際会議に出席なさる要人が何人かホテルJへ宿泊なさるのでな。
ああ、警護の相談ですか、と。
平八と兵庫さんとの間で公的レベルでの事実の刷り合わせが済んでから、

 「何でわたしが久蔵のお目付役なのだ。」
 「そっちですか。」

 今更 否定したってそれこそ白々しいってもんですよ。
 ……。(頷、頷)
 ほら久蔵殿も力強く頷いてるし…なのは ともかく。

 「そか、それで久蔵殿、気を利かせたんですねvv」
 「〜〜〜。///////」

そうこうとごちゃごちゃしておれば、
さすがに そんなこちらへも気づいた二人の壮年殿。
職場では温厚ながらもそれなりに貫禄もあろう、
あれほどの大ホテルの取締役様が。
お帰りとの笑顔つきで愛娘を出迎えにと歩み寄ってくるのと入れ違うよに、

 「シチ。」
 「え? あ。」

その久蔵さんから とんっと背中を軽く押され、
なめらかな金の髪を風に梳かれた白百合さんだけは、
テラスへと居残ったお髭の壮年殿のほうへと追いやられていて。
すれ違う格好になった三木さんチのお父様に慌てたような会釈をしつつ、
苦笑交じりに立ち上がっておいでの、勘兵衛殿が待つほうへ。
えとあの、そのその…と、ぎこちなくも含羞みながら、
それでも素直に歩んで行っており。
そんなお背中、見送りながら、

 「シチは何かに集中したかったらしくてな。」

紅ばらさんがぽつりと呟く。
唐突に久蔵さんへと降ってわいた“ばらの騎士”のお話へ、
じゃあアタシが衣装を縫いましょうねと、
任せなさいと頼もしくも胸を叩いたその陰に、
実は埋もれていたとある事情。
その発端を、たまたま久蔵も知っており。
居合わせなんだ平八へ、
後日にこそりと教えたその“内緒”というのが、

 「今頃というと、
  新人が研修を終え、実践の場へ出される頃合いだろうが。」

勿論のこと、どこも同じとは限らなくって、
職種によっちゃあ数年ほども研修期間があったり、
そうかと思や、
ぶっつけ本番で店頭に放り出されるスパルタなお店もあったりしようが、

 「先週だったか、
  島田と佐伯とが、学生臭い女御を引き連れて、
  Qタウンで訊き込みに歩いておったのでな。」

 「……おや。」

久蔵がお風呂を嫌がる くうちゃんのためにと、
安全無香料のネコシャンプーを探していたのへ。
“だったら、いいのがありますよ”と、
草野さんチのイオちゃんに使っているのを薦めてもらい、
Q街のペットショップまでのお買い物へ、お付き合いいただいたおりのこと。
放課後のモールは結構な混雑だったのだが、
それでも目立つお歴々だったということか。
通りを挟んだ向こう側、
こちらがそれと気づいたと同時くらいのあっと言う間に、
高級ブランド店へと入って行ってしまった三人連れが、どう見ても…。

 「それって…。」

濃色のパンツスーツにシックな白のシャツブラウス、
パンプスとショルダーバッグは黒で、
パーマっ気のない髪をうなじで束ねていたと来て。
絵に描いたような女性私服警察官という
地味ないで立ちだったそうだけれども。

 「まさかそのまま配属ってワケじゃあ…。」

話を聞いただけの平八でさえ、違和感を覚えたのも無理はない、
警視庁捜査二課 強行係島田班には、これまで女性刑事がいなかった。
彼女らとの縁が出来てからこっちどころか、
勘兵衛が班長となった当初からこっちのずっと、
他の班にしても男所帯ばかりの部署だそうで。
殺人や強盗という、事件性としても荒ごとならば、
犯人への糸口を見失うと なかなか長引くハードな部署でもあるがため。
女性への差別区別をするではないが、
今のところは男性の刑事さんたちで間に合っていたのだろう。
そんな地盤がそうそう変わるものとも思えないから、

 「きっと研修生ってやつでしょうに。」
 「……。(頷)」

一応、全部の職場をその身で体感しておくというよな、
研修生として色々な部署を一巡りしているだけだろと。
七郎次もそう言ってたので、俺もああそうかと納得したのだがな。
そんなと自分で言い出したくせに、
何とも落ち着きのない様相になってしまった七郎次だったので、

 「…それで、騎士のお衣装はシチさんに縫ってほしいと?」
 「………。(頷、頷)」

他の人の心持ちやご機嫌の波には疎くとも、
優しくて懐ろ深くて、大好きな七郎次の感情の機微には、
そりゃあ敏感な久蔵ならではの、
思いがけないご対面という気遣いだったようであり。

 「……久蔵殿。」

これは参った、
いつもはこっちが引き回して来たはずの朴念仁さんが、
そんなことまで意を酌めるようになったとはと。
ひなげしさんが感激もひとしお、じ〜んとしていたのにかぶさって、

 「そんな気遣いや段取りが出来るようになったのだなぁ。」
 「偉いぞ、久蔵。」

たまたま居合わせた、久蔵殿の真の保護者のお二方にも、
これほど じんと来るお話はなかったものか、

 「?????」

何で何で、どうして父様たら抱っこするの?
兵庫も笑ってないでワケを教えないか、と。
そこのところはまだまだか、
戸惑うばかりの紅ばらさんだったようでございます。






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  *五月の女神じゃなくって五月の女王でしたね。
   訂正してお詫び申し上げます。

  *前世なんていうややこしい記憶を持っていて。
   しかもしかも、その記憶というのが、
   命懸けの合戦を繰り広げていた世界のそれで。
   当時からも絆を持ち合ってた、
   ちょっと不思議な間柄のヲトメらですが。
   たとい、敵意への勘が本能レベルで鋭くても、
   それへの素晴らしい反射と、
   身体への速やかな連動でもっての“ケルナグ〜ル”が得意でも。

   ―― 実質はまだまだ十代半ばのお嬢さんたちですんで。

   ちょみっとささくれ立ってるお友達への
   一番の特効薬を用意したり。
   はたまた、拙いながらの頑張りへ、
   無用な手出しはしないまま、見届けて差し上げたり。
   そんなかあいらしいことにだって、奮闘しちゃうんです、はい。

   そんなお嬢さんたちの、清かな五月の初めのお話。
   もちょっとお付き合いくださいませね?


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